民が立たなければ、国も立たない――久米島の「三鳥問答」を読む
月夜に集まった三羽の鳥
政治のよしあしを判断するには、人びとが食べ、働き、家族を養い、暮らしを次の世代につないでいけるかどうかを見る必要があります。久米島を舞台とする「三鳥問答」は、この問題を三羽の鳥の対話として描いています。伊波普猷は『古琉球』で、この作品を「百年前の琉球儒者の農村観」という副題のもとに紹介しています。「百年前」とは、伊波が文章を書いた時点から見た過去です。私たちは昔の琉球の儒者が農村をどう見ていたかを、伊波の紹介と解釈を通して読むことになります。
舞台は久米島の君嶽です。伊波は、俗にガラサーヤマと呼ばれる、海中に突き出た小島です。ある明月の晩、ここに集まった烏、鷺、隼が島の暮らしについて語り始めます。ただし、成立事情には注意が必要です。伊波は、官生騒動によって久米島に流された松永親雲上という学者が、鳥たちに仮託して政府の失政を諷刺したという伝承を紹介する一方、入手した写本の奥書には異なる説明があるとも記しています。作者についての伝承を、そのまま確定した事実として扱ってはいけません。また、伊波は琉球語を交えた文語の写本を現代語に直したと説明しています。以下では、Wikimedia Commonsに転載された、国立国会図書館所蔵の青磁社版『古琉球』の本文に即して考えます(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:NDL1877926_古琉球_part1.pdf)。