ロシアは私の『週刊プレイボーイ』連載をどう利用しているのか――国営メディアが日本人の言葉を情報戦の資産に変える仕組み
ロシアで繰り返し翻訳される私の連載
自分が書いた文章や発言が外国でどのように読まれているかを調べることは、インテリジェンスの観点から興味深い作業です。とりわけロシアの場合、日本語の記事を単に翻訳して紹介するだけではありません。どの記事を選び、どこを見出しにし、どの発言を強調するかを見ることで、ロシア側が日本社会をどのように観察し、自国民にどのような世界像を提示しようとしているかが見えてきます。私は『週刊プレイボーイ』に附属する「週プレNEWS」で、小峯隆生氏との対談形式による国際情勢分析を続けています。現在の連載では公開情報、すなわちOSINT(Open Source Intelligence)を活用しながら、ロシア・ウクライナ戦争、米ロ関係、中国、中東、日本外交などについて議論しています。この連載の一部が、ロシアで繰り返し翻訳されています。ここで重要なのは、「ロシア人が私の記事を読んでいる」というだけの話ではありません。ロシア側は、日本人であり、しかもかつて外務省で対ロシア外交に携わった人間が発した言葉を、ロシア自身の国際情勢認識を補強する材料として利用しているのです。
中心にいるのは国営メディアИноСМИ
中心となっているのはИноСМИ(イノスミ)です。ИноСМИは外国メディアの記事をロシア語で紹介する媒体で、現在は国営メディア企業「ロシア・セヴォードニャ」の一部を構成しています。したがって、単純な民間の翻訳サイトとは性格が異なります。これまでの調査では、少なくとも2025年9月16日、2026年1月12日、3月28日、7月24日などに、集英社の私と小峯氏との対談がИноСМИによってロシア語化されていることが確認できます。2026年1月12日の記事では、「ロシアは必要な限り戦争を継続できる」という趣旨の私の分析と、トランプ米大統領とプーチン露大統領の間では水面下で一定の了解が成立しているという分析が前面に出されています。ИноСМИは私を「日本外務省の元分析官」と紹介しています。
3月28日の記事も特徴的です。「ジャングルの法則」という比喩を使った対談から、私はロシアを「カバ」に、米国を「ライオン」にたとえました。カバは水中ではライオンを倒すことさえできるほど強い。すなわちロシアは、自らに有利な領域では米国であっても簡単には圧倒できない大国だ、という意味です。さらにウクライナについては、自らをライオンと思っているが実際の国力はそれほどではないと述べました。この部分はロシア側にとって利用価値があります。停戦についても、ウクライナだけでは決められず、西側、とりわけドイツとの交渉が重要になるという分析が紹介されています。7月24日の記事では、G7やNATOの機能低下、トランプ政権下における国際秩序の再編、米ロ関係などについての発言が掲載されています。そこでも、既存の同盟秩序が弱まり、大国間の直接的な取引が重要になるという私の世界認識が取り上げられています。
重要なのは「何を報じたか」だけではない
ここまでは、ロシア側が私をどのように「利用」しているかという話です。しかし、インテリジェンス分析では、存在する情報だけを見てはいけません。存在しない情報にも注意を払う必要があります。何を報じたかと同じくらい、何を報じなかったかが重要なのです。
私はロシアについて、ロシア側に都合のいいことばかり述べているわけではありません。むしろ2026年夏以降、日ロ関係に関しては相当に厳しい分析を繰り返しています。8月13日のプーチン大統領による択捉島訪問について、私は日ロ関係における一線を越えた行動と評価しました。単なる国内視察ではありません。ロシア大統領自身が、日本が領有権を主張する島に入り、そこを疑問の余地のないロシア領として扱う政治的演出には、明確な対日メッセージがあります。
さらに9月1日以降のプーチン大統領の対日発言についても、私は重大な変化だと考えています。ロシア側は現在の日ロ関係悪化について、責任は事実上「100%日本側にある」という政治的物語を形成しつつあります。しかし、そこからは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻という原因が抜け落ちています。日本が制裁を発動したことだけを取り出し、その前に何が起きたかを捨象すれば、因果関係そのものが逆転してしまいます。私はこの点を明確に指摘しています。
また、ロシアが9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第二次世界大戦終結の日」と位置づけ、日本を現在の政治的敵対者と歴史上の「軍国主義日本」と連続させようとしていることにも警戒を示してきました。これは単なる歴史認識の問題ではありません。過去の日本帝国と現在の日本国家を一つの物語の中に配置することで、現在の対日強硬政策に歴史的正統性を与える作業です。
象徴的なのがハバロフスクに設置された対日戦勝記念碑です。そこでは日本を象徴する菊花紋章を破壊するイメージが用いられました。私はこれを一地方都市の偶発的な展示とは見ていません。プーチン大統領の指示の下で進む国家的な歴史記憶政策の文脈に置き、「軍国主義日本」を過去の存在ではなく、現在の日本への政治的メッセージとして再利用する動きだと分析しています。