ロシアはなぜ日本を「直接的脅威」と呼び始めたのか――対日認識に生じた重要な変化
日本が「直接的脅威」になった
日ロ関係を見るうえで、9月16日のロシア外務省の発表は重要です。ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が武藤顕駐ロシア日本大使と会談し、日本の防衛政策、米国などとの軍事演習、中距離ミサイルの配備などについて強い懸念を表明しました。注目すべきなのは、ロシア外務省が用いた「直接的脅威」という言葉です。同省は9月16日付の会談発表で、次のように記しています。
〈Все эти шаги представляют прямую угрозу национальной безопасности России, миру и стабильности в Северо-Восточной Азии.〉
「これらすべての措置は、ロシアの国家安全保障、ならびに北東アジアの平和と安定に対する直接的な脅威である。」
(ロシア外務省、2026年9月16日、ルデンコ外務次官と武藤顕駐ロシア日本大使との会談に関する発表)
これは従来のロシア側の対日批判とは少し性質が異なります。これまでもロシアは、日本が「再軍事化の道を進んでいる」「米国の対中・対ロ戦略に組み込まれている」と批判してきました。しかし今回は、駐露日本大使との正式な外交協議において、日本の軍事政策がロシアの国家安全保障に対する「直接的脅威」だと明示し、日本が現在の軍事活動を継続すれば、自国の防衛能力を確保するために必要な「補償的措置」を取ると警告しました。
日本が防衛力を強化し、日米同盟の下で共同訓練を拡大する。ロシアはそれを自国への軍事的脅威と認定して極東方面の軍備を強化する。その動きを見た日本がさらに防衛力を増強する。このような作用と反作用が始まれば、典型的な「安全保障のジレンマ」に陥ります。一方が自国を守るために行った措置を、相手は攻撃準備と受け取り、その結果、双方が防御を目的としていても軍事的緊張が高まってしまうのです。
墓参まで政治問題になっている
もう一つ見逃してはならない変化があります。北方領土の旧島民による墓参です。この問題について、ペスコフ大統領報道官は9月15日、日本の対ロ政策に言及して次のように述べています。
〈Япония занимает крайне недружественную позицию по отношению к нашей стране.〉
「日本はわが国に対して極めて非友好的な立場を取っている。」
(ドミトリー・ペスコフ大統領報道官、2026年9月15日)
さらにザハロワ外務省報道官も9月15日、日本側が旧島民の墓参再開を求めていることについて、次のように述べました。
〈Наверное, надо не настойчиво добиваться, а просто прилично себя вести.〉
「執拗に要求するのではなく、まずまともに振る舞うべきだろう。」
(マリア・ザハロワ・ロシア外務省報道官、2026年9月15日)
外交当局者の発言としてはかなり感情的です。しかし、重要なのは言葉遣いの激しさだけではありません。ロシア側が、これまで領土・平和条約問題とはある程度切り離して扱う余地のあった旧島民の墓参という人道問題まで、日本の対ロ政策全体と結びつけ始めていることです。
「軍国主義日本」から「現在の日本」へ
8月13日のプーチン大統領による択捉島訪問以降、ロシアの対日言説を継続的に観察すると、一つの流れが見えてきます。当初は北方領土問題が中心でした。その後、9月3日の「軍国主義日本に対する勝利及び第二次世界大戦終了の日」をめぐって歴史認識が前面に出ました。ハバロフスクに設置された対日戦勝記念碑をめぐって日本政府が抗議すると、ロシア側は「日本軍国主義に対する勝利」を強く主張しました。しかし現在、問題はさらに先へ進んでいます。ロシアが批判しているのは1945年以前の「軍国主義日本」だけではありません。2026年の日本の防衛政策そのものを「直接的脅威」と評価し始めています。
これは質的な変化です。歴史認識をめぐる対立なら、過去をどう評価するかという問題にとどめることもできます。しかし相手国を現在の軍事的脅威と認定すれば、その認識は軍事計画、部隊配置、ミサイル配備、軍事演習など具体的な安全保障政策に反映されます。
それでもロシア国営テレビは抑制している
ただし、ここで冷静に見なくてはならない点があります。9月16日のロシア第1チャンネル『Время(ヴレーミャ)』と政治討論番組『Большая игра(大ゲーム)』を見る限り、日本問題が主要テーマとして大々的に取り上げられているわけではありません。ロシア政府が本格的な対日世論キャンペーンを展開しようとするなら、第1チャンネルなど国営テレビを使って「日本の軍事的脅威」を繰り返し国民に訴えることができます。しかし現時点では、そこまでは進んでいません。つまり現在のロシアには二つの動きがあります。外交・安全保障当局では対日認識が明らかに硬化している一方、国営テレビを通じて日本を主要な「敵」として国民に印象づける段階にはまだ至っていないのです。この二つを混同してはいけません。
日ロ関係で最も危険なのは「相互作用」である
日本はロシアによるウクライナ侵攻を容認する必要はありません。北方領土に関する日本の原則的立場を変更する必要もありません。しかし、それとは別に、ロシアが日本をどのように認識しているかを正確に把握する必要があります。外交で重要なのは、相手の主張に同意することではなく、相手がどのような論理で行動しているかを理解することです。
現在、最も警戒すべきなのは、日本の防衛力強化をロシアが「直接的脅威」と認識し、それを理由に極東で軍備を増強し、そのロシアの動きを見た日本がさらに防衛力を強化するという循環です。ここに中国、北朝鮮、米国が加われば、問題は日ロ二国間にとどまりません。現時点で中ロ朝三国による共同の対日軍事的圧力が形成されたと判断するのは早計ですが、そうした構図を固定化させないためにも、日ロ間の意思疎通の回路を完全に閉ざしてはなりません。
9月16日のロシア外務省の「直接的脅威」という言葉は、単なる外交上の強い表現として読み流すべきではありません。ロシアの対日認識が「過去の日本への批判」から「現在の日本への脅威認識」へ移り始めた可能性を示すシグナルとして受け止める必要があります。
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