民族はやがて消えるのか――ミハイル・スースロフが構想した「ソビエト人民」

ソ連共産党最高のイデオローグだったミハイル・スースロフは、諸民族が「開花」しながら「接近」し、遠い将来には融合すると考えました。その中間に置かれたのが「ソビエト人民」です。この理論には、ソ連という国家が抱えた根本的な矛盾が表れています。
佐藤優 2026.11.04
読者限定

ミハイル・スースロフとは誰か

 ミハイル・アンドレエヴィチ・スースロフ(1902~1982)は、ソ連共産党の最高指導部で長くイデオロギーを担当した人物です。1921年に共産党に入党し、プレハーノフ記念モスクワ国民経済大学を卒業、政治経済学を教えた後に党官僚となりました。1947年から1982年まで党中央委員会書記を務め、1955年以降は政治局員としてフルシチョフ、ブレジネフ両時代の思想・宣伝・文化政策に巨大な影響力を持ちました。経歴についてはロシア側の人物資料でも確認できます。出典:https://www.hrono.ru/biograf/bio_s/suslov_ma.php ただし、スースロフをブロムレイやチェシュコと同じ意味で「民族理論家」と呼ぶと誤解が生じます。ブロムレイやチェシュコは民族学者として「エトノスとは何か」を学問的に考えました。スースロフの仕事は違います。レーニン、スターリン以来の民族理論を、共産党による国家統治の論理として組み直すことでした。したがって、彼の民族理論は学問的な民族論であると同時に、ソ連国家をどう統合するかという政治理論でした。

レーニン、スターリンから何を引き継いだのか

この記事は無料で続きを読めます

続きは、6792文字あります。

すでに登録された方はこちら

読者限定
ラブロフ外相が日本の再軍備と非核三原則見直しを批判――ロシアのユーラシア安全保障構想と日ロ関係
読者限定
金與正談話をどう読むか――「対話」と「国益」を切り離す北朝鮮
読者限定
スターリン『レーニン主義の基礎/レーニン主義の諸問題』を読む――革命の「歴史的起源」をどう捉えたか
読者限定
ネタニヤフ氏の交渉力を国家の安定へ――過半数割れ後の現実主義を考える
読者限定
ゴメリでのロシア・ウクライナ接触をベラルーシはどう伝えたか――人道協力と「平和の外交」
読者限定
ベラルーシの高校数学から考える――「深く学ぶ」機会をどう保障するか
読者限定
第三次世界大戦を避けるために――ルカシェンコの警告、トランプへの評価、ミンスクへの招請
読者限定
真理を失った民主主義はなぜ独裁を生むのか――フロマートカが論じたマサリクとラドルの哲学